【筑前琵琶に触れるひととき】博多のまつり「どんたく」

2年2回の中止を乗り越え「今年こそは!」と開催を願う「博多どんたく」は「山笠」と並び博多を代表するお祭りです。パレードは福岡藩主であった黒田家のお殿様にご挨拶を申し上げに行った列を想起しますし、街に響く「祝うた!!」の発声からもわかるように福岡博多の繁昌繁栄を祝うことが目的の福岡市民のまつりです。5月3日4日がゴールデンウイーク中であることも重なって、例年その人出数が全国ニュースで紹介されるほど大変な賑わいとなります。店々ではここぞとセールを打ち出して商売繁盛、活気に溢れ華やかな休日となります。近年では海外からの参加も増え、世界へ通じる港町福岡らしい国際色も感じられる祭りへと変容しています。

さて、長きにわたり筑前琵琶保存会もどんたく隊を編成して参加いたしております。普段は正座、もしくは椅子に座って演奏していますが、この日は小ぶり軽量である四絃の筑前琵琶を紐で体に結わえて立ったままで演奏をします。多くの観客が沿道を埋めるパレードでは歩きながらの演奏と共に、金色の烏帽子にグリーンの装束、紫色の袴姿という古式ゆかしき姿が風に揺れるのも趣深いとお楽しみいただいております。店舗の軒先にてお祝いと繁昌を祈念して演奏するのも祭りの日の伝統で、パレードの前後にお伺いします。

筑前琵琶自体は全国各所に広がり演奏されていますが、祭りに参加したり通りもんをするのは類をみない事と思います。曲も「平家物語」などの幽玄の世界とは離れ、「緑めでたき松囃子~」と始まる明るい感じの「弥栄博多」を演奏します。この曲は歩く速さにぴったりの調子よいリズムとテンポです。この曲を聴いて、琵琶のイメージが変わったと驚かれる方もいらっしゃいます。四絃独特の響きもあるのですが筑前琵琶が明治時代に三味線の影響を受けて誕生したということに頷けるところでもあります。祭りの音楽としての筑前琵琶は発祥の地福岡の特徴の一つと思います。

近年では地元発祥の芸能と言われながらも沿道のパレード見物で初めて筑前琵琶をご覧になる方も多く、博多どんたくは筑前琵琶を生で見て知って頂く一つの機会となっています。昭和53年(1978年)にはどんたく隊がサンフランシスコ桜まつりへ参加して海を渡りました。私はまだ幼くて同行叶いませんでしたが筑前琵琶もどんたく隊に加わりました。祖母がローマ字のサインを練習し、初代会主の嶺旭蝶師に同行したことを覚えています。今ほど動画などが簡単に見られる時代ではなかった頃にアメリカの皆さんにどんたく囃子を演奏する筑前琵琶隊はどのように映ったでしょうか。

博多どんたくは現在今年の開催に向けて着々と準備が進み、関係者それぞれが様々な思いをお持ちのことと思います。毎年非常にお世話になっていますが、例年に増して大変なご苦労があることと心から感謝を申し上げます。かつてない2年を思い返してみますと、「とにかく今はステイホーム」だった令和2年、どんたくは中止となりました。翌年の令和3年はもしかしたらの期待とともに準備を進めました。パレードは中止となったので演舞台参加を模索して準備、衣装にマスクを加え、音源も収録、思いつく感染対策を整えて準備しましたが最終的には中止となりました。残念との思いはありますが、参加希望者が練習を重ね、当日の衣装を試着して舞台に立つことを想像する。そんな時間を過ごせた事が嬉しく、楽しみな行事が少ない中で、また大変な思いをされている方々がいらっしゃる中でありがたい事だと感じました。当日でしか味わえない感動はもちろんありますが伝統を繋ぐという意味ではお稽古ができたこと、衣装や道具を出して触れて手入れをすることで私自身は何だか満足でした。現在コロナ禍を乗り越えるために加速する新しいやり方に戸惑いつつも「どんたく開催のため」というニンジンを前に奮闘する日々です。

さてさて今年令和4年の「博多どんたく港まつり」当日の天気は如何に⁉(どんたくには雨の心配がつきものなのです)

◆筑前琵琶保存会どんたく隊出演予定情報◆

<パレード>
古典どんたく隊 13畤48分出発
<どんたく演舞台>
櫛田神社演舞台 12時15分から
お祭り本舞台  15時20分から

記事提供者:寺田 蝶美
筑前琵琶保存会 会主
福岡音楽都市協議会 理事・企画運営委員