福岡で音楽との幸せな出合いを!「音ナビ隊」主宰の大楠麻里さんインタビュー

みなさんは、福岡のライブ情報検索サイト「音ナビ隊」を知っていますか? 今日福岡で体験できるライブ情報を多様なジャンルからチェックできる「LIVE検索」機能や、「ふくおか音楽図鑑」と題した様々な楽器や福岡の音楽に携わる様々な人を深堀りする動画コンテンツなど、福岡の音楽に関するコンテンツをアップしているサイトです。実はこのサイト、ある女性の強い思いで始まり、運営されています。その主宰者である任意団体「ふくおか音楽村」代表の大楠麻里さんにお話をうかがいました。

みんなに再び「音楽」の楽しみを!

_「今日福岡で聴くことができるライブを知る」ことができるポータルサイト。確かにあればいいのに…と思いながら、これまでなかったものですね。なぜこのサイトを立ち上げようと思われたのですか?

私自身が音楽鑑賞が好きで、ライブなどによく足を運んでいたのですが、ある時、いつも会うのは同じお客さんだなぁと気づきました。それからミュージシャンやお店によって、ライブ情報の発信が得意な人と苦手な人がいるのも分かってきて…。

福岡は昔から多くのミュージシャンを輩出してきた街で、彼らが生まれてきたのはライブハウスなど、生の演奏の現場から。この生きた情報が、インターネットが普及した現在でも入手できないのは、もったいないと思ったのです。

_確かに、好きなミュージシャンやふだんから通っているお店であれば、ピンポイントにSNSから情報を得られますが、そういう接点がなければ出合えませんよね。

周りの友人に聞いても、95%くらいの人たちが『音楽が好き!』というのですが、じゃあ最近ライブに行ったかを尋ねると、10年くらいご無沙汰だという人がたくさん。なにかの接点さえあれば、彼らがまた音楽と出合えるのではないかと思ったのが、このようなサイトを作りたいと考えた直接のきっかけでした。生演奏の場面に一人でも多くの人がたどりついて、感動してくれたらいいなぁと。

「あったらいいのに」をつくるまで

_とはいえ、そこから「自分がやるのだ!」とエイッと一歩を踏み出すには、大きなハードルもありそうです。

以前イタリア・ミラノを旅した時に、作曲家ヴェルディが私費を投じて作った、引退した音楽家が老後を過ごすことができる“音楽家のための憩いの家”を訪れました。なんと現役で使われていて、今でもそこに住む高齢な音楽家たちは、現役で音大生などにレッスンをしているのだそうです。

このエピソードに、胸をうたれてしまって。私はヴェルディのようなことはできないけれど、音楽に貢献する方法はいろいろあると思うようになりました。

あとは生来の空想癖ですね(笑)。いつも頭の中に「あったらいいな」が渦巻いているんです。そのひらめきを、形にしてみよう!と思って始めました。


_現在のポータルサイトとなるまでには、どんな活動をされていたのですか?

最初の2〜3年は1人で活動していました。Facebookでライブ情報を発信したり、インタビュー記事を書いたり。福岡に関わりのあるミュージシャン11組を、ジャンル横断的に編集したオムニバスアルバムを制作し、その発売記念ライブをやったことも。経験がないことに右往左往しながら活動していました(笑)

別に仕事をしながら活動しているため、どんどん大変になってきちゃって。見るに見かねた周りの人達や友人たちが『一人じゃ無理よ!』と手伝ってくれるようになって、一人っきりの「ふくおか音楽村」から少しずつスタッフが増えていきました。音楽業界のプロではない、詳しくない人たちで成り立っているのが特徴かもしれませんね。いまに至るまで、この団体を母体に活動しています。


_「ライブWALK」というのはなんですか?

福岡のあるエリア内で、5つのお店にご協力いただき、一夜のうちにいくつかのライブをはしごできるというものです。2ドリンク付きで3000円でチケットを販売して、これまで春吉や西中洲、赤坂など7カ所で半年に一度実施してきました。


_行ったことのないお店ってちょっと緊張するものですが、この企画だったら行きやすそう!

そうなんです。ライブ未経験の方から『初めてのライブ、楽しかった!』と言われたり、これをきっかけにお店の常連さんになられたり。ジャンルも偏らないように、ジャズからクラシック、邦楽まで織り交ぜているので、『初めてアコーディオンを聞いたけど、すごく好きになりました』と言われたことも。こういう声を聞いたときが、やっていてよかったと思う瞬間ですね。

福岡赤坂スペーステラでのライブWALKの様子


未知の音楽と出合う仕組みをつくる


_うかがっていると、大楠さんは1つのジャンルではなく、多様な音楽と出合うシーンをセッティングしたいと考えていらっしゃるんですね。その思想が「音ナビ隊」にも通じているように感じます。

福岡にはいろんな素晴らしい音楽が溢れているのに、知られていないのはもったいない!という気持ちが強いんです。ジャンルを超えるためには、生の体験が必要だと思っています。目の前でミュージシャンが演奏し、その音に空間が満たされるのを体感すると、もっともっといろんな人がライブの現場にアクセスしたくなるのではないでしょうか?


_「音ナビ隊」のLIVE検索機能は、まさにジャンルレスに「今日、今週末出合える音楽」を検索できますね。福岡に出張に来た人で夜に時間が空いてしまうなんていう時に、便利ですね。

そんなふうに使ってくださったらうれしいですね。そのためにももっと情報を充実させたいですね。ジャンルごとにふだんから情報発信をされている方に協力していただいたり、ライブハウスやお店に入力をお願いしたり、お手伝いしてくれている人が集めてくれたり、様々な方法で情報収集をしているのですが、これがなかなか大変で…。協力者求む、です。


_楽器についての解説から、読み物や動画も充実しています。しかもコンスタントに更新されていて、すごいです。

せっかく情報を発信しているからこそ、サイトを見に来る楽しみを作りたいと思って、慣れない取材や、動画編集までやっています。最近ではイギリス人のキーボーディスト、モーガン・フィッシャーさんとの鼎談を動画にしたのですが、慣れない翻訳と字幕をつけるのに必死…。作業しながら『私なんでこれやってるんだっけ…』と途方にくれました(笑)

大変なことはもちろんあるのですが、私自身の音楽との関係がどんどん深まり、人脈が広がり、アンテナを広く張ることができるようになって、『やっぱり音楽っていいなぁ』と感じています。

去年の夏休みには、小中学生へ向けた楽器うんちく学の生配信を「ふくおか音楽村」がプロデュースしました (福岡市PTA協議会主催)。 バンドネオンやリュート、オカリナという、ふだんなかなか接することがない楽器の、演奏するミュージシャンからレクチャーをしてもらうという贅沢な内容で、子どもたちの為の活動が実現できて嬉しく思います。


_大楠さんは、将来ご自身の活動や「音ナビ隊」がどうなっていけばいいと考えていますか?

第一には、サイトを利用する方やライブWALKに来てくださった方が、私同様に『音楽って楽しい』ということに、気づいて再び出合って欲しいですね。第二に、ミュージシャンや音楽に関わるお店が潤う仕組みを作りたい。そうすれば私もうれしいので、三方良しですね(笑)

そのために次の課題は、「音ナビ隊」がお金の面や作業の面で自立していくことを考えたいです。お店を紹介する機能など、いくつか追加したい機能もあるし、バージョンアップをはかっていきます。



きっと一緒に「ふくおか音楽村」として活動する人は、活動のコアとなっているのは大楠さんの静かな情熱に影響されて動かされているのだろうと感じた取材でした。別の仕事を持ちながら、「ふくおか音楽村」での活動にも邁進している大楠さんに「音楽にまつわる仕事で食べていけるようになりたいと考えますか?」と尋ねたところ、うーんと考えた後「そのイメージはあんまりないんですよね。続けていくために赤字にならないようにとは思うのですが」という返事。確かにやりたいことを続けていくことと、それが仕事であることは必ずしもイコールではないという、あたりまえのことに思い至りました。コロナ禍が明けて、ライブWALKが再開されるのが楽しみです。

2022年2月2日 Bar party diaryにて取材 (https://fbc6005.gorp.jp/
制作/インタビュー 浅野 佳子