「音楽」人類が共有すべき世界遺産
音楽は私たちをその時の自分の気持ちと向き合わせてくれますが、過去や他の人が伝えたい想いとも結びつけてくれるツールにもなり得ます。 あなたのお気に入りの曲は、過去から引き継がれてきたリズムを基に作られたものかもしれません。
ロックからレゲトン、ポップ・ミュージックやヒップホップまで、今日聴かれている音楽のほとんどは、皆さんご存知の新大陸発見という出来事から生まれています。
アメリカ大陸発見により世界は永久的に変化したと言っても過言ではありません。また、この大陸が決して元通りになることはなかった、と私たちは認めざるを得ないでしょう。ヨーロッパによる征服当初から原住民に対し、後には奴隷に対し不公平な時期でした。後に、そこは長年に渡り世界中の移民が夢を抱く新世界になりました。今日では、その想いをメロディーで表現された様々な生き方が散りばめられた個性溢れるモザイクとして楽しむことができます。
南アフリカの作家であり、ノーベル文学賞を受賞したJ.M. クッツェーは次のように言っています。
“本物の大衆音楽の革新は、新世界(=アメリカ)にある。アフリカという起源を失った奴隷音楽を通して北米、そして南米からアフリカのリズムは西洋へと広がった。アフリカ音楽を通して、西洋人たちは身体を使い、新たなスタイルで生き始めたと言っても過言ではないだろう。植民者達が、植民地化されたのだ。”
今日、最も親しまれ、踊られているラテンアメリカのリズムの多くは、各地域に住む先住民コミュニティー固有の生活にルーツを持っています。それらは後に、植民地化に始まり、アフリカ人の上陸、大規模なヨーロッパ人移民の到来のはざまで、混ぜ合わされました。感情により創られたリズムは、私たちの歴史のなかで禁じられそうになった時期があったものの、今なお伝承され、共有され続けています。
私が育ったアルゼンチンの音楽的アイデンティティー同然であるタンゴ、カンドンベ、ミロンガ(異論を唱える人もいますが、いずれもアフリカ起源の言葉)。これらの音楽は、当時最も擁護されずにいた民族、アフリカ系の人々が音楽で感情を表現したおかげで生まれた音楽なのだと思うと、私は胸を打たれる思いがします。18世紀にはアルゼンチンの人口の46%も占めていたアフリカ系のグループは、現在では0.4%しか存在しません。
この複雑な音楽のプロセスは、わずか1世紀前までほぼ使われることのなかったヨーロッパの楽器、バンドネオンによって表現されるようになります。当時あまり人気のなかったバンドネオン。2000年以上前に中国で管楽器(笙)が発明されました。それから数世紀後、その楽器はヨーロッパに伝わって教会のオルガンのルーツとなり、そして約200年前にこの楽器が誕生したのです。あまり人気のない楽器でしたが、バンドネオンは、この文化のるつぼ、夢と悲しみ、不当と希望を表現する道具になりました。
今年、生誕100周年を迎えた巨匠ピアソラの場合、タンゴをバンドネオンで演奏されるクラシック音楽として世界的に認知させた革命を起こしています。
すべての音楽が出来るまでの過程は非常に似ていると私は考えます。
音楽が今日の私たちの気持ちと過去の人々の感情を繋ぐ 流動体だと考えるなら、また、もし世界の最も遠い場所と私たちを結び付けるのが音楽だと考えると、世界観の行き来のなかで、私たちを未来に導いてくれ、またメッセージを残し、耳を傾けるように誘ってくれる音楽から私たちは何かしらを学べるでしょう。
福岡市のこのプロジェクトが、「創り出すこと」と「聴くこと」の両方を刺激するものであることを願っています。相手を理解しようとするトレーニングは、これまで以上に重要であるように思われます。
記事提供者:サンティアゴ・エレーラ
特定非営利活動法人ティエンポ・イベロアメリカーノ